あんがーの樹

環境系大学院修了⇨法人営業⇨青年海外協力隊。平成元年生のアラサーが綴る。

林業の常識を覆す、新しい西粟倉流木材流通を作る森の学校

山から出された木材は通常、原木市場という市場に運ばれ、値をつけられ、売れていきます。


しかし、これまで西粟倉には原木市場がなく、鳥取県の市場まで持っていかなければなりませんでした。

西粟倉で採れた木材を使うためには、鳥取県までいかないと買えないという状況。

西粟倉の木を使って商売をしようとすると、鳥取県まで持っていく輸送コスト鳥取県から持ってくる輸送コスト市場の手数料などなど、あらゆるコストがかかって原木代が高くなります。


そこで西粟倉の取った作戦が、西粟倉内に木材を貯める貯木場を作り、そこで地元企業が値をつけて購入するというもの。

こうすることで素材生産(木を切る会社)にとっては原木を遠くまで持っていくコストを削減でき、製材会社にしても原木を持ってくるコストを削減できます。

何よりも西粟倉の木を使って製品を作れるので、地域ブランドを高め、ファンづくりや宣伝効率も高くなります

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西粟倉の材が集まる貯木場。ここで選別を行い、材、バイオマスなどの用途に分けられる。

この仕組みを作ったのが株式会社西粟倉 森の学校

流通部長の西岡さんから、西粟倉の木を使って地域を元気にするための工夫を教えていただきました。

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西粟倉の材で村を盛り上げるために立ち上がった、森の学校

とにかく何でも製品にする!分けることで生まれる木材の価値

西粟倉の貯木場に出てきた木材のうち、西粟倉村内で製品化される木材の多くは(株)西粟倉 森の学校(以下、森の学校)が購入しています。

劣勢間伐を主流とするため、出てくる材の多くが細く、あまり価値の高くない材。

これらを如何にして付加価値をつけ、高く売るかというのが森の学校の命題です。

西粟倉の材に合わせた製品開発を効率よくできるよう、製材機を特注で生産。購入した材はすべて板材に製材し、製品開発に力を入れています。

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特注の製材機。最低限のオペレーションで済むよう細かい工夫が。

なぜ単価の高い梁や柱材を作らないかといえば、そのような製品は他の製材所が大規模かつより上質な材を使って生産しており、そのようなレッドオーシャンで戦うことはしない、という戦略なのだそう。

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ずらりと積みあがった板材

製材時に出てきた端材はチップにし、細かく仕分けして燃料や家畜の床材などとして販売しています。

「林業は選別業。欲しい人が欲しい時に欲しい量を供給することで利益を出せる」という言葉は、非常に説得力がありました。

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端材はチップに。サイズ別に選別することで商品価値を作り出す。

西粟倉の特色を出すことにこだわった商品づくり

製材された板材は1か月ほど自然乾燥された後、乾燥機での乾燥工程へ。

森の学校では、敢えて時間のかかる中温乾燥機を使うことで木材本来の色艶や香りを残し、特色を出しています。差別化ですね。

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二台で稼働する中温乾燥機HIGUMA

板の中には「死に節」と言って、昔の枝の跡などがスポッと抜けて穴が開くようなものも混じっています。

森の学校では完成した板を短くカットすることで、節の少ない製品の数を増やし、節のある板は加工して節を埋め、再度製品にし直すとのこと。

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死に節のある材。既定の直径でくり抜いて補修します。
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補修された材。これでフローリングなどの商品にも使えます。

森の学校さんの工場では、たくさんの女性が働いていました。というか、ほとんどが女性

西粟倉で新たな雇用の創造をするには、女性の活躍が欠かせなかったそうです。節を一つずつ直したり、製品を傷めない丁寧な梱包は女性のほうが得意だったりするらしい。

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多くの女性が活躍する製材所。刃物が見えないよう、こちらも特注のマシンを導入。

森の学校の人気製品といえば、「ユカハリ・タイル」
zaimoku.me


もともとは板材として販売できないような材を製品化したもの。それを50×50に揃えてシートを張ったところ、賃貸で床をリファームしたい個人やベンチャー企業からの人気が出たそう。

すべてを商品にして、新しいニーズと巡り合う。まさにベンチャー精神だと感じました。

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自分で削って作るカトラリー。愛着がわきそうです。

まじめにふざける戦略でつかんだ話題性

森の学校さんの倉庫には、一般の人も買い物ができるHAZAI MARKETというコーナーがあります。

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素人でも見ているだけで面白い。
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奥にはDIY玄人向けコーナーもあります。

製材工場ならでは、クオリティの高い端材が破格で手に入ると、DIYファンがわざわざ工場まで来て材料を選んでいく。

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激安なのです(笑)

中間業者の多い材木業界においてエンドユーザーとの距離を縮めることは、良いものをより安く、より高利率で提供するために欠かせない企業努力だと感じました。

よく見るとキャッチ―なポップが目に入り、DIY初心者でも見ていてワクワクする工夫がされていました。



工場見学の最後は、梱包で使う段ボールの一工夫。

商品を郵送する際の段ボールには林業の川上から商品が届くまで、70年の道のりが描かれています。

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木を植え、手入れし、育てる。
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切り出し、製材し、送る
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数十年の時をかけてお客さまのもとへ。

「僕らは一本の木がお客様に届くまでにかかる数十年のうち、たった3か月しかかかわることができない。」とおっしゃった西岡さん。

その時間をお客さまに伝えるのも、森の学校の役割なんだろうな。

ストーリーのある商品が自ら営業し、BtoCtoBを実現する

木材流通に変革を起こし、西粟倉の材で特色ある商品を生み出す森の学校。

その商品には西粟倉村の想いが乗り、ストーリーを知った消費者がファンになるという仕組み。

社内には明確な営業担当という人はおらず、商品自体が営業をしてくれるとのこと。


口コミでつながった法人取引もあるそうで、BtoCをやっていたらBtoBもついてきた、というほど強い話題性がありました。

森の学校では、オンラインショップ以外にもあらゆる方法で西粟倉の木材に触れてもらう仕組みを作り、ファンを増やしてく計画があるとのこと。

「現在の木材市場は、たった5500億。僕らはここで勝負をしない。新しい市場を開拓し続ける」という西岡さんの言葉には本当に感動しました。